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特集記事

『ちいさなこまいぬ』:絵本REVIEW(再録)


これは・・・。

もし1冊の絵本でなくとも、この表紙の1枚で、もう十分。

でもさらに、読み終えて改めて表紙を見つめるならば、狛犬の真正面をじっと見据えたまなざしは、私の胸を鋭く射抜いて、問いただすかのよう。

 お前はこの話を読んでちょっと感傷的になったろう?

 でも俺が言いたいのはそんなことじゃないんだぜ、

 と。

時代から取り残され、変わっていく故郷は、もう決して取り戻せはしないのだ。

狛犬なんて時代遅れの遺物の1つさ!

故郷とともに忘れ去られていく狛犬。

時には涙をその眼に浮かべて・・・。しかしそれでも狛犬は、古き良き時代の復古を訴えているのではない。

時代は確実に変化して、自分はいつかは忘れ去られていく。それは仕方がないことだ。

ただ、私が見たもの聞いたもの、感じたものは私の想い出として、これだけは確実に私のものなのだ。というよりもそれがこそが私なのだ。

変わっていく時代が運命で、消えてくのが宿命ならば、この狛犬のまなざしはその諦念と同時に、宿命への抗いが込められているのかもしれない。その二つの眼で見てきた記憶のすべてをもってして、これが唯一の私であったのだと・・・そんな宿命へのプロテストは感傷を寄せ付けない無機質な眼差しとなって、じっとこちらを見据えている。

最後の数項で狛犬はつぶやきます。

「私はだれのこともわすれない」

「私はこのむらのこまいぬだ」

「私は故郷をまもるこまいぬだ」

まるで何かを諭すかのように、想い出にあえて強情なまでに固執する。それが存在することの責務であるかのように。そんな狛犬の姿がいつまでも心に残ります。

                              2011年6月 岡村正敏

作・絵: キム・シオン訳: 長田 弘出版社: コンセル

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